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不満足症例の検討『移植結果が不満足な症例とは?』

Lesson 23.1年目検診で不満足な結果と回答した症例の検討

30歳代後半、典型的な生え際修正の症例です。
しかし、1年目検診で不満足と回答した症例です。
FUT:1100グラフト(最終グラフト:1120グラフト)。

術前術後写真

【術前】
HN分類(➡ 男性のAGAのHN分類表をご参考ください。):3型。
20歳代頃からM字脱毛が気になり、ご来院の2、3年前からフィナステリドを個人輸入で服用している症例です。今回はフィナステリド内服でも効果がないために植毛術をご検討されたようです。
術前写真を見るとわかるように、典型的なAGA 3型の状態で、M字部はうぶ毛にまで退化しているため、薬剤による効果はそれほど期待できない状態であることがわかります。

遺伝的素因:父は2か3型ですが、他は不明です。
ドナーの状態:後頭部のドナー密度は低いだけでなく、後頭部の側面は真ん中の部分と比較して細い毛髪が混じっています(2つ目の図参考)。これは術前写真の白➡️に示すように、もみあげ上部の側頭部の薄さを見ても、その傾向が推測できます(最初の図の術前写真参考)。
したがって、ドナー条件はそれ程良くないという評価になります。
術式の選択
上記のように、ドナーの状態はあまり良くないため、ドナー毛の損失やドナーのキズの範囲が増えるFUEは、今後のことを考慮すると推奨しにくい症例です。また、にきび体質であることから、さらにFUEではドナー毛の損失が増加することが予測できます。
以上の理由によりFUTを選択されました。

術後ドナー部

【術後アンケート結果】
この症例では、術後にミノキシジルの内服を使用していたようでした(個人輸入のため、服用時期などの詳細は不明)。ミノキシジルを使用する場合、植毛結果は術後6ヶ月目におおよそ判断できる状態になっているのが普通です(他の症例を見るとわかるように、大部分が術後6ヶ月後に写真上ほぼ最終結果まで到達します)。
6ヶ月目のアンケートでは、
「やや満足」、植毛して良かったかの質問ー「はい」、植毛して良かったなと思う事は何ですかという質問ー「風が気にならない」
と回答されていました。
1年目のアンケートでは、
「やや不満」、植毛して良かったかの質問ー「植毛をしていないよりマシ」、植毛して良かったと思う事は何ですかという質問ー「植毛をしていないよりマシ」
と回答されていました。。

【植毛結果の評価】
今回は、モニター制度を導入して初めての不満足症例です。術度経過の写真を見ても、1年目が6ヶ月目よりも毛量が減っているように見えて、通常(1年目の方が6ヶ月目より良い)とは少し違う動きに見えます。ただし、6ヶ月目の時点でも写真では分かりにくいですが、平均よりは薄い感じです。1年目検診時で御本人さんが「もう少し増えるものかと思っていました」というのも、全くその通りだと思います。期待を裏切ったことは非常に申し訳ないことと感じています。なお、今回の経過のように通常1年目で完成するはずが、6ヶ月目より悪くなるというのは、非常に極稀に経験されます。同様の状態でよくあるパターンとしては、ミノキシジルの不適切使用や何等かの病気のために弱い既存毛がすべて抜けてしまって、移植した強い移植毛だけがそれほど抜けずに取り残された状況によく似ています。
なお、今回の場合は、FUT(FUSS)で行っているため、術中・術後を通じて大きな問題がなければ、90~100%のグラフト生存であると推測できます。したがって、グラフトの生存率が全く悪くなかったしても、不満足となる原因として、以下のようなことが考えられます。

  1. ドナーの状態
    植毛術ではドナー部の状態は最重要事項です。
    2つ目の図の右にある採取したドナー組織を見てみましょう。上が今回の症例での採取ドナー組織で、下がドナー状態が良い場合のドナー組織を比較しています。この比較を見てもわかるように、同じ面積のドナーを採取したとしても、移植毛のパワーは個々の患者さんによって大きな差が生じてしまうのがわかるでしょう。当然のことですが、移植毛として使用する後頭部の頭髪が多くてボリュームがある方が移植結果が良くなります。
    また、今回のケースでは、後頭部の側面(ドナー組織の外側)の毛髪は真ん中の頭髪と比較して毛髪の太さが細いのがわかります。これらの細い毛髪は、ボリュームが出ないので、生え際の真ん中ではなく、M字部や生え際の外側に優先的に移植されることになります。したがって、たとえ同じ密度で移植したとしても、どうしてもM字部や生え際の外側から薄く見えてしまいます。
  2. 作成された移植グラフトの移植場所と移植密度の関係
    移植毛を使用することの問題として、作成されたグラフトをすべて使用することが大原則となります。しかし、ここで問題となるのは、自分の毛髪であるからこそ、人工的なものと異なって太い毛髪を自由に選択するなどということはできないのです。ここが、物と違って人間を扱う医術の難しいところです。細い毛髪のグラフトも、たとえ効果が少なくても使用しなければなりません。
    今回の症例では、ボリューム効果が高い3本毛グラフトが160、2本毛グラフトが600、ボリューム効果が少ない細毛や1本毛グラフトは360で、合計1120グラフトの移植となりました。
    これらの作成グラフトを適切な部位に移植するのですが、将来的なことを考えると、パワーのある3本毛グラフトは、どうしてtuftと呼ばれる前頭部の真ん中に使用する必要があるのです(➡ 『重要な移植部位であるFrontal Tuft』をご参考ください)。今回の場合は、2つ目の写真の左で、白➡️の分け目がやや左寄りなので、前頭部のやや真ん中から左寄りに3本毛グラフトを使用しています。1つ目の経過写真の緑➡️を見ると術後6ヶ月目と術後1年目の両方とも術前よりも真ん中分け目部が濃くなっているのがわかります。
    また、移植密度のことも考慮しなければなりません。今回の場合、M字部は30~35/㎠の密度で移植されています。無毛部への移植の場合で、仮に1本毛グラフトばかりを1㎠当たり30~35本移植したとすれば、100%の毛量と比較すると20~25%程度のボリュームアップでしかないのです。通常、50%程度必要とすれば、密度アップのためにもう一度移植術を行う必要があるかもしれないということになります。
  3. 薬剤の使用方法
    術後の薬剤使用は重要です。
    本来、AGAを伴っている場合は、脱毛進行予防のために使用することが重要となります。しかし、術後の不適切使用で、移植術の結果が不自然な動きをすることが非常にごく稀にあります。このような現象は、特にミノキシジルの使用中止によって起こることが多いです。
    今回のケースでは、術後6ヶ月目と比較して術後1年目でM字部の薄さが目立っているように見えます。さらに、それだけではなく、1つ目の写真の真ん中分け目の黄➡️を見ると、1年目より6ヶ月目の方が地肌の透けが少ないのがわかります。このような場合、薬剤の使用パターンや変更を思い返す必要があります。
    つまり、仮説では、6ヶ月目の結果はミノキシジルの術後使用効果によって、正常な術後経過を示したといえます。薬剤によって、M字部にあったうぶ毛が少し色素を帯び、加えて、移植毛も早く発毛し太くなったと考えられます。しかし、その後に薬剤を中止したため、弱い既存毛は抜けてしまい、移植毛の太さも若干細くなったり、少数が抜けてしまったとも考えられます。
    したがって、このような症例では中止した薬剤がないか、薬剤の内容を変更していないかを検討し、効果的であった薬剤を再開するのが良策となります。つまり、ミノキシジルを中止したことによって薄毛が進行したり、中止後数カ月後に抜け毛が増えて脱毛が極端に進行してしまった場合、裏を返せば、体質的にミノキシジルが非常によく効いていたということになるので、むしろ使用継続するのが髪の毛に対しては良いということになります。

以上のようなことから、同じ移植密度で移植したとしても、特にドナー条件が悪い場合は、良いドナー条件の方よりどうしても移植結果が悪くなってしまいます。したがって、既存毛が完全に退化して無毛状態になっている場所に移植する場合、できるだけ1回で植毛術で終わらせるために、安全な範囲で可能な限り高い密度で移植しておいた方が良いということになります。理論的には、50%以上の毛量があれば写真上問題にならなし状態になります。したがって、標準的な日本人であれば、太い毛髪が60~75本/㎠であれば、見かけ上問題ない毛量が達成できると考えられます。つまり、既存毛が全くないということでしたら、1本毛グラフトを40/㎠の密度で移植しても達成できません。一方、2本毛グラフトを40/㎠の密度で移植できれば、既存毛が無くなったとして見栄えはなんとか保てるということになります。
今回の症例では、術後に個人輸入で薬剤使用を行っていたため、詳細は不明ですが、急激な薬剤中止によって移植毛を含めて余分に脱毛してしまったとも考えられます。遅れずに再度薬剤開始することによって、術後6ヶ月目の状態までは回復することが普通です。また、薬剤中止で余分に抜けてしまった場合は、中止薬剤を使用しなくても再び再発毛するので、6ヶ月後に再評価するのがよいでしょう。そして、それでも密度が足りないと感じる場合にはじめて、2回目の植毛術を検討するのが適切です。

術後ドナー部

【ドナーのキズ - 術後1年目】
3つ目の写真は術後1年目のドナーの線状のキズを示しています。
わからないキズに治癒していることがわかります。したがって、FUT(FUSS)を行う場合は、ドナー密度が少なかったとしても、まだ6000グラフト以上を採取することが可能です。

(2024年6月 K. Yamamoto記)

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