Lesson 5. FUEにおける『グラフト損失』の問題: Part Ⅱ
毛包切断率の影響について
【Point!】
- FUEを行うにあたって、組織損失のない:相対的毛包損失を伴うグラフト損失の代表格は毛包切断です。
- 植毛術(FUE)を受けるにあたって、毛包切断率がどのくらいあるか?ということは、皆さん、とてもご興味があるかもしれません。
しかし、さらに革新的な技術的進歩がない限り、切断率の個人差は大きいということだけは確かで、少ない人もいれば、非常に多い人もいるのです。結局のところ、一度手術をやってみないと、自分自身がどのくらいFUEに適正(切断率が少なくてFUTと比較して、ほぼ遜色がない)であるかはわからないのです。
【Point!】
しかし、さらに革新的な技術的進歩がない限り、切断率の個人差は大きいということだけは確かで、少ない人もいれば、非常に多い人もいるのです。結局のところ、一度手術をやってみないと、自分自身がどのくらいFUEに適正(切断率が少なくてFUTと比較して、ほぼ遜色がない)であるかはわからないのです。
前回は、FUEを行う際に起こりうる、移植できないグラフト損失(=絶対的毛包損失を伴うグラフト損失)について説明しました。
今回は、FUEの良し悪しを決定するのに最も重要な切断率の影響についてイメージしてみましょう。なお、切断率はグラフト切断率ではなく、毛包切断率で考えていきます(➡ Proの植毛術・Lesson 2を参考にしてください)。
まず、わかりやすくイメージするために、私がFUEを許容できる境界線と考えている切断率が10%の場合と、FUTに術式変更するのが適正であると考えている切断率が30%の2つのケースを見ていきます。
- Case 1 : 2020年の国際毛髪外科学会でHarris医師(FUEにおけるS.A.F.E. Systemを開発した非常に著名な医師)が報告したシュミレーションです。
これは、Proの植毛術のLesson1で解説したKim医師 & Choi医師の切断毛包の生存率に基づくものです。生存した切断毛包はすべて本来のように太い毛髪として発毛するという条件での仮説のシュミレーションです。
この報告の理論に基づくと、切断毛包の57%はしっかりとした太い毛髪が発毛するというものです。
つまり、2本毛グラフトを24グラフト(合計48本)移植した場合、10%の切断率では2~3本の毛髪だけが発毛せず、30%の切断率では6~7本の毛髪が発毛しないことになります。 - Case 2 : 切断毛のほとんどは発毛しないか、発毛したとしても毛髪の直径が激減して、うぶ毛となってしまう場合です。以前から私が指摘している最悪のケースになります。
この場合、2本毛グラフトを24グラフト(合計48本)移植した場合、10%の切断率では4~5本の太い毛髪が発毛せず、30%の切断率では14~15本の太い毛髪が発毛しないことになります。
このシュミレーションを考えていく場合、以下の2つのパターンで見ていきたいと思います。
Harris医師の報告では、切断率が10%であれば、美容的に些細な変化で、問題となることはないと述べています。
また、美容的に認識されるほど薄くなる場合は、毛包切断率が32%になった場合であると結論づけています。
図2を見るとわかりますが、切断率が30%の場合では、全く生えていないという状態ではないですが、本来よりかなり薄くなっているのは明らかになってしまいます。
しかし、切断率が50%の場合をシミュレーションするとわかりますが(図3)、50%も切断しているにもかかわらずCase 1のような比較的良好な結果になるとは到底考えられず、多くの場合は、私が考えるように、Case 2のようにかなり薄い結果に終わってしまうと考えられます。
私は、FUEの初回手術において、手術の最初の段階で、30%程度の毛包切断率が予測される場合は、躊躇なくFUTへの術式変更を患者さんに提案しています。
手術中に全く異なる術式に変更することは、患者さんやスタッフへの負担を考えると、かなり心苦しい面はあるのですが、長い目で見ると、グラフトの損失を減らすことが、最終的に最良の結果を得ることができます。
したがって、どうしても譲れないことだと考えているからなのです。
不幸にも、切断率が高いにもかかわらず、手術を完了してしまった方で結果が非常に悪くなってしまった中には、「こんなものだろうか?」という、明白な理由もわからず疑問だけが残る場合もあるかもしれません。しかし、FUEで植毛術を行った場合で思わしくない結果で終わった場合、多くのケースでは切断率を含めて、採取したグラフトの状態が相当悪かったということが想定されます。
FUEのグラフト採取中にグラフトや毛包の切断率が高いか低いかということは、植毛術を行う専門医師であれば、手術の最初の段階で簡単にわかるものなので、手術中であっても手術後の結果はある程度予測できるものなのです。
(2022年6月 K. Yamamoto記)