Lesson 5. 薬剤を使用しない場合は、将来の脱毛を予測しておくことが重要
40歳代前半男性:AGA3v型の薄毛の状態で、ご年齢的には脱毛進行が遅い症例です。
脱毛治療薬は使用しないため、将来の脱毛を予測しておくおことが重要です。
FUT:1500グラフト(最終グラフト:1513グラフト)。
【術前】
HN分類(➡ 男性のAGAのHN分類表をご参考ください。):3v型。
今回の症例は、生え際の後退(薄毛)とつむじ部(薄毛)に対して、植毛術を希望してのご来院です。
”薬は飲みたくない”という強い希望をお持ちの方です。
幸い、40才代前半というご年齢を考慮すると、通常のAGAの脱毛進行より倍進行が遅い症例です。
しかし、つむじ部がAGAの影響を受けて薄くなっているので、将来的にはほぼ確実にAGA5型まで脱毛が進行していくと予測できます。
したがって、医学的には脱毛治療薬を予防的に服用しておくのが無難ということになります。
この症例のように、たとえAGAによる脱毛進行が非常に遅いとしても、万が一、今回行う植毛術を行った部分やその周囲の既存毛がAGAの影響を受けて薄くなった場合は、遅れずに薬剤治療を開始することを念頭に入れておく必要があります。
以上のような内容の説明の上、重要な生え際の薄毛の部分と、かっぱハゲ(➡”かっぱハゲ”の治し方をご参考ください。)の薄毛の部分に移植することとなりました。
つむじの渦巻きが2つあるので、その部分は分け目になって地肌が透けやすいデメリットがあります。
遺伝的素因と年齢:父は3型、父方祖父は5型、母方には5型のAGA脱毛者がいます。
ドナーの状態:ドナー密度は平均よりかなり低い症例です。
術式の選択:ドナー密度が低く、ご年齢も40歳以上なので、FUEよりもFUT/FUSSの選択が賢明です。FUEのデメリットをご理解の上、FUT/FUSSを選択されました。
【手術評価】
生え際の薄毛部分に平均移植密度約30グラフト/㎠で1100グラフトの移植、そして、つむじの薄毛部分に平均移植密度約20グラフト/㎠で400グラフトの移植を行っています。
【手術結果 - 術後6か月目と術後1年目】
術後も薬剤を使用していませんが、6ヶ月目と1年後の経過はほぼ正常に経過しました。
もともと薄毛の状態の部位に移植しているので、2次元の写真では、髪のボリュームのアップはわかりにくいですが、写真でもつむじの渦巻きに挟まれた部分の移植毛がしっかりと立ち上がっているのがかわります。
なお、上記でも述べたように、今回の症例では、AGAの脱毛進行速度は通常より遅いと考えられます。したがって、今すぐに脱毛治療薬を使用しなくてもよいかもしれません。しかし、AGA脱毛が進行することによって、生え際やつむじの移植部位の細い毛髪の既存毛がうぶ毛に退化することによる地肌の透けに気づた時点ですぐに予防薬を使用するのが大切であると考えられます。そのまま様子を見るというのも1つの方法ですが、薄毛や脱毛を治したいと思い続けているとすれば、進行した脱毛部位を埋めるために余分な植毛術を繰り返さないといけません。
これは、費用的にも身体的・時間的負担も増すことなので、副作用がない限りは薬物治療がよいのではないかと私は思っています。
【ドナー部 - 術後3か月目・術後6か月目・術後1年目】
今回の症例では、1500グラフトなので、比較的たくさんドナー部を採取する必要があります。また、密度が低いために、通常より多めに採取しなければなりません。
こういった場合、線状のキズが通常より広がりやすくなるリスクだけではなく、本来の毛穴の密度が低いのでキズの部分が薄く見えてしまいます。
さらに、患者さんはあまり気づくことはないのですが、ドナー部の頭髪の一部も一時的に脱毛するのです。今回の症例ではミノキシジルを術後に使用していないので、そのような一時脱毛の数も増えてしまったり、その一時的に抜けた頭髪の発毛も少し遅れてしまい、キズも微妙に開きやすくなるというリスクがあると考えられます。術後3か月目の状態を見ると、ドナーのキズを含めた頭髪が明らかに減っているのがわかるでしょう。これは一時脱毛が比較的多かったことを示しています。
今回のドナー創の最終結果は悪いというわけではありませんが、術後6か月目と1年目のキズを見ると、白矢印のように若干スポット状に毛穴の幅が広く見える部分が見られます。
これが気になるかと言えば、気にならないかもしれませんが、私の思う完璧なドナー創ではありません。
(2024年12月 K. Yamamoto記)