【術前】
HN分類（➡ 男性のAGAのHN分類表をご参考ください。）：6型（無毛＋薄毛）。
生え際から頭頂部の植毛術をご検討されて当院にご来院されました。
術前写真を見ると、薄毛部分はあるものの重度AGA脱毛である6型に分類できることがわかります。後頭部の部分を見ると、すでにはっきりとV字型に薄毛として脱毛進行していることがわかります。これで5型ではなく、6型であることを区別できます。

このケースでは、植毛術を目的にご来院されているのですが、最も問題なことは、”薬剤は使用しない”という意思が固いことです。
薬剤を使用することにより、比較的細い頭髪に退化した毛髪も少しは回復する可能性があるということは１つの理由です。しかし、最も重要なのは、この細くなって伸びなくなった頭髪もうぶ毛まで退化しなかった場合、プラス効果が維持されるので、非常に少ないグラフト数の移植術でも、かなりの年月、時間稼ぎができるからなのです。
万が一、薬剤を併用しないのであれば、現在の薄毛の部分は、比較的近い未来にうぶ毛まで退化してつるピカの頭皮になってしまいます（無毛状態）。そうなると、7000～8000グラフトの移植術が必要となります（➡ 「将来どのくらいの移植グラフトが必要なのか？を解説」をご参考ください。）。

今回の植毛術では、頭髪を伸ばした場合に現状で必要な最低量のグラフト数を見積もっています。
前頭部に1500グラフト、つむじ中心に500グラフトという内訳です。

遺伝的素因と年齢：父は6型ですが、それ以外の近親者は1～3型です。
ドナーの状態：後頭部のドナーの密度は、白人の中では低めです。ただし、日本人と比較すると正常範囲の密度です。
術式の選択：
本来は重度AGAの場合、移植グラフトの損失を最小限にするためにFUTで行うのが原則だと考えています。
ただし、白人の中ではドナー密度はやや低いものの、40歳以下であり、比較的短髪を好むことから1回くらいのFUEのトライは可能です。結果的には、当初からFUEをご希望されていたので、FUEを選択されています。

【手術評価】
移植面積は前頭部とつむじ中心部の合計で60-65㎠、移植密度35（前頭部）～25（つむじ中心）グラフト/㎠で移植術を行っています。
FUEの評価：
FUEでまず重要な検査は、毛包切断率です。この例では、毛包切断率（➡ Step3『Proの植毛術』をご参考ください。）は14%でした。
また、損失されたグラフトを含めた毛包切断率自体が15%と推定されました。
この結果を見ると、FUEを行うことにより損失は正常範囲よりかなり多くなることが判明しています。つまり、次回、植毛術を行う場合はFUTを選択することを強く推奨する結果となっています。ただし、日本人と異なり、比較的多くの”ひげ”があることもあり、将来、頭髪で足りない毛髪をひげで補うことも可能です（この場合、FUEしか選択肢がないため、将来的にFUEを全く行わないということではありません）。

【手術結果 - 術後6ヶ月目と１年目】
術後6ヶ月目の結果でも効果はわかりますが、術後に薬剤を使用していないために若干遅い発毛です。この時点の最後の写真を見ると、移植したつむじ中心を取り囲むように移植していないドーナツ状の薄毛領域がわかります。
術後1年目では、頭髪も伸びてきたことにより、移植していない部分を隠せているので、外観上ほぼ正常に見えるところまでになっています。
しかし、分け目を見ると、移植している部分と移植していない部分がしっかり認識（前頭部とつむじ中心に挟まれた部分は薄く目立っています）できてしまいます。

これ以上、脱毛が進行してしまうと、移植術を行いたくなるでしょうから、できるだけ薬剤を早く開始していただくことを願うばかりです。

【ドナーのキズ - 術後3ヶ月・6ヶ月・1年目】
3ヶ月目ではスキンヘッドに近い状態ですので、純粋にドナー採取による密度の低下がわかります。この状態でも、1回のFUEでは、無数の点状のキズは非常に判別しにくい状態で治癒しています。
6ヶ月目や1年目のように、多少頭髪に長さが出ると、無数のキズは全く判別できません。

（2023年4月 K. Yamamoto記）