Lesson3-4. FUTとFUEで採取した後のドナーのキズの違いはあるのでしょうか?
FUTではドナーを塊状に採取するので、通常、1つの線状のキズが残ります。
FUEは、毛包(毛穴)単位でドナーを採取するので、無数の点状のキズが残ります。
今回は、合計4回の植毛術を行いました。
当院でFUT→当院でFUT→他院でFUE→当院でFUT、の順でドナーの状態を見ていきます。
【ドナー採取後のキズの経過】
当院での1回目の植毛術(FUT)後の線状のキズ:
初回は500グラフト相当のFUTでドナーを採取しています(➡FUTをご参考ください)。
ドナー部は塊状で採取して縫合するので、線状のキズとなっています。今回の場合、後頭部の右側に長さ10cm弱の線状のキズがあります。
ただし、私の縫合方法では、高確率でキズからうまく発毛するので、素人目にはキズがわからなくなってしまうことが圧倒的に多いのです。
今回の場合も、どこにキズがあるか探してみてください。
当院での2回目の植毛術(FUT)後の線状のキズ:
今回のドナー採取は、1000グラフト相当の植毛術ですので、後頭部の真ん中を中心に左右対称にドナーを塊状に採取しているので、約18cm程度の線状のキズとなっています。
写真を見てもわかりますが、初回手術と同様、わからないキズとなっています。
他院での3回目の植毛術(FUE)後の無数の点状のキズ:
右写真は、他院で500グラフトのFUEを行った後、当院で4回目の植毛術を行う前に後頭部のドナー部を撮影したものです。
FUEでは毛穴単位でグラフトを採取していくので、1つ1つのキズは針穴のように小さいのですが、それが採取個数分ある(注:採取個数分というのは正確ではありません)わけです(➡FUEをご参考ください)。
写真をみると、後頭部の頭髪はまだらに発毛しているように見えます。
なぜなら、グラフトを引き抜いた部分は、無毛になり、二度と発毛しないためです。
しかし、これでも素人目にはキズはよくわからないでしょう。
当院での4回目の植毛術(FUT)後の線状のキズ:
前回のFUEによる無数の点状のキズは、広範囲に広がっているため、今回のFUTでのドナー採取は部分的に点状のキズを含む場所からドナー採取を行いました。
ドナー採取後のキズの部分を見ると、FUEでの点状のキズに埋もれた形で線状のキズがあります。
したがって、今回の線状のキズはよくわからなくなってしてまっています。ただし、線状のキズの周囲には点状のキズが残っています。後頭部は広い範囲で小さいキズが残っている状態のままなのです。
ここで、2回目の手術後の後頭部の状態と4回目の手術後の後頭部の状態をあらためて比べて見ましょう。明らかに2回のFUT植毛術後の状態の方がこの患者さんにとっては良かったのではないでしょうか?比べてみて、はじめて違いがわかります。商品を選ぶ時と同じように、比べてみると良し悪しがよくわかるものです。
【ドナー採取部の総評】
今回の症例を見ると、複数回の植毛術を行う場合での植毛術の注意点がわかります。以下に列挙します。
- FUEでは、無数の小さい点状のキズが広範囲にできてしまう。
つまり、FUEは決してキズができない方法ではなく、無数の小さいキズによって採取部は広い範囲で荒らされてしまう。 - FUEを行うと、次の植毛術で、無数のキズのある場所からドナーを採取しなければならないこともある。
つまり、キズのない綺麗な採取部位がなくなってしまい、次の手術では採取グラフトの条件がますます悪くなってしまう 。 - 本当にFUEを植毛術の最終回として行うのであれば、問題はありません。
FUTのように、線状のキズになる心配はなく、術後のドナー管理も必要ないので、楽だからです。 - FUTを行う場合、ドナーの縫合技術が高度である必要があります。
そもそも、特別な縫合技術を用いないと、キズが開いてしまう確率が増えてしまい、キズが開いてしまうと次の手術を実施するのに躊躇してしまいます。
(2022年9月 K. Yamamoto記)