Lesson 8. 初期型パンチを用いたFUE
植毛術におけるFUEでは、用いるパンチが非常に重要です。
今回は、初期型パンチについて理解してみましょう!
今回からグラフトをくり抜くためのパンチについて考察していきます。
パンチは、FUEを行うにあたって最重要器具であり、最もおろそかにできないものなので非常に大切です。
初期に用いられていたFUEパンチは鋭利なものでした。
そして、構造的には生検パンチ(生検トレパン)のような構造をしていたため、毛包(毛根組織)をくり抜くのに大きな問題がありました。
まず、一般的に用いられている生検パンチを見てみましょう(図)。
通常は皮膚を綺麗にカットするため円筒状の鋭利な刃を備えており、刃の先端の断面を見ると、外側が斜めに傾斜しているOutside Bevel(外側斜角)になっています。
FUEの初期の段階では、このようなOutside Bevelのパンチしか入手できない状態でしたので、毛穴単位であるFU(Follicular Unit)を簡単に採取できるものではなかったのです。したがって、損傷のない完全なFUを採取するにしても、毛包(毛根組織)の切断が多く、個人差も多かったわけです。
Rassman医師とBernstein医師によるFUEに関する最初の論文報告(Dermatologic Surgery 2002)では、FUEの適否をClass 1から5の5段階に分類しています。Class 4と5はFUEに適さない切断の多い症例を示します。そして、FUE非適応とされるClass 4(10.0%)とClass 5(16.0%)の合計で26%存在していることが論文に記載されています。つまり、約1/4の症例ではFUEをすべきではないことがわかります。
特にClass 5では、すべての採取グラフトに損傷があった症例が分類されており、植毛術でFUEを選択してしまうと、6人中1人で移植した毛髪が全く発毛していないように見える大惨事の結果となる症例であったと推測されます。
なお、この論文中で、毛髪が太いアジア人は引き抜きが容易であると予想していたにもかかわらす、実際には真逆で、Class 4に分類されることが多かったことが記載されています。つまり、白人よりもアジア人の頭髪の方がFUEを行うのが難しいことが示唆されているのです。
では、実際に外側斜角の鋭利なパンチを用いた初期のFUEを日本人に行った場合、どれくらいの割合がFUEに適していて、どのくらいの割合が適さないのでしょうか?
日本人を対象にこのような評価を実際に行って公表したのは、私だけであると思われますので、概略を説明します(Hair Transplant Forum Int’l 2008)。
毛包の切断は、最も正確な割合を示す毛包切断率(FTR: Follicle Transection Rate)によって分類しています。以下に示す、①FUE適応例、②FUE困難例、③FUE禁忌例におおまかに3分類しています。
1. FUE適応例は、FTRが30%以下であること示しています。
2. FUE困難例は、FTRが30%~50%程度であることを示しています。
3. FUE禁忌例は、FTRが50%以上あることを示しています。
円グラフを見るとわかるように、日本人に対する初期型パンチを用いたFUEでは適応者はわずか4分の1であり、毛包損失が全く許容できない切断率が50%以上の症例は実に4人に1人も存在したことになります。
私の検討で半数の人に当てはまるFUE困難例が、Rassman医師とBernstein医師の論文で記述しているClass 4に相当しているとすれば、ほぼほぼ同じような結果であることは、非常に興味深いといえます。
私は、大切なドナー毛を1本も損失したくないと思っている人間です。
初期の時代と比較するとパンチは革新的に良くなりましたが、現在行われている最新のFUE機器とパンチであっても、毛包切断率が高い場合があり、FUEがすべての患者さんに適するわけではありません。
したがって、FUEを行ったすべての患者さんに対して、損失グラフトを含めた毛包切断率をできるだけ正確に計測するように私自身心掛けているのです。
(2024年1月 K. Yamamoto記)