Lesson 7. 若年者の重度AGA脱毛への対応。
20歳代男性。AGAのタイプ5型で、将来的に6型までは確実に脱毛進行すると予測できる重度AGA脱毛の症例。
AGA脱毛と気づいた段階で、早期薬物治療を開始することが最も重要です。
若年者で重度AGA脱毛への進行が予測される症例に対して植毛術を行う場合、特に生え際ラインを下げすぎないことが最も重要です。。
FUT/FUSS: 1300グラフト(最終グラフト数:合計1531グラフト)。
【術前】
HN分類(➡ 男性のAGAのHN分類表をご参考ください。):3v型(将来的に6型)。
20歳前後から薄毛が気になり、2年前から脱毛治療薬を開始するようになりました。当初は他院にて脱毛治療薬を処方されていましたが、ご来院時には個人輸入で薬剤使用を継続されていました。
ただし、少しでもハゲを改善したいという思いはわかるのですが、ミノキシジルを1日10mgという高用量で服用していました。この用量は現時点では将来的な副作用が非常に危惧される不適切用量であり、今後は最低1日5mg以下の容量に下げるようにしてもらうこととしました。
当院のご来院前に薬剤使用前の状態の写真を提供いただきましたが、写真で見るよるにすでに、前頭部から後頭部上まで脱毛が進行したNorwood-Hamilton分類 6型の重度AGA脱毛症へ進行することがわかる状態までAGA脱毛が進行していることが見てわかります。
20代というご年齢を考慮すると、経過観察する時間的猶予はすでにないことがわかります。
したがって、この患者さんのように比較的早い段階で薬剤治療を決断されたことは1つの重要な決断であったわけです。
2枚目の写真の術前写真を見ると、薬剤使用により見かけ上は、3v型の軽度AGA状態まで改善していることがわかります。
しかし、ここで薬剤を止めてしまうと、再び元に戻ってしまうだけではなく、AGAは完全なAGA6型まで確実に進行していくことを十分に理解しておく必要があります。
遺伝的素因と年齢:父方は3~5型、母方は6型の方がいます。
ドナーの状態:ドナー密度は非常に低い状態でした。
術式の選択:
重度AGAの場合まで進行すると予測され、ドナー密度も低いため、若年者であってもFUT/FUSSを選択せざるを得ない状態です。
カウンセリングで上記ご理解していただき、FUT/FUSSを選択されました。
【手術評価】
生え際に対して移植密度35グラフト/㎠で約500グラフト、つむじ部に対して移植密度20グラフト/㎠で約1000グラフトの移植術を行っています。
【手術結果 - 術後3ヶ月目、術後6ヶ月目と1年目】
ミノキシジルを内服していると伸びない少し太い毛髪が発毛しているので、写真では手術による増毛効果がわかりにくいですが、そのような薄毛部に長く伸びる太い移植毛がプラスされることによって、丈の低い草原に大木を立てるように移植部位の頭髪の厚みが増します。
【ドナーのキズ - 術後6ヶ月目と1年目】
通常、20才代では今回のようにFUT/FUSSを選択するのではなく、FUEを選択することが普通です。
では、なぜ、今回の症例でFUT/FUSSを選択したのでしょうか?
その理由は、若年者の高度AGA脱毛症例であり、さらに悪いことにドナーの条件が悪いためにFUT/FUSSを選択しているのです。
脱毛予防治療薬を継続したとしても、もし植毛術が必要な程度まで薄毛が進行してしまったらどうでしょうか?
その時に、再度植毛術を行わなければならない状況になったらどうでしょうか?
初回手術でFUEを1500グラフトも採取してしまうと、 後頭部全体は広範囲に虫食い状の点状範囲で占められてしまいます。そして、FUEを行うことによって生じる切断毛や損失毛は失われてしまって再び増えることはないのです。
したがって、若年者であっても当院の方法ではFUEよりもFUT/FUSSが優れるのです。
しかし、特に20才代ではFUT/FUSSのデメリットがあるのです。それは写真を見るとわかるように、若すぎるがためにドナーのキズへの過剰反応が強くなってしまいます。この症例のようにキズが過剰に赤くなっているのがわかると思います。このような反応は患者さんの体質による個人差によるところが大きいですが、キズの治りに関しては40才以上の年配者と比較すると全く違うのです。
今回の場合は術後のドナーの赤みは強いですが、キズ自体はわからないキズに治癒しています。御本人の術後アンケートでも以下の様に述べています。
「術後は痛みが強くて辛かったですが、植毛をして良かったです。心が少し楽になり、帽子をかぶる頻度も減り、美容師さんの対応も変わった。」
(2024年12月 K. Yamamoto記)