Lesson 6. Norwood分類:6型の重度AGA脱毛では移植部位が広範囲のため複数回手術が必要となります。
30歳代白人男性。AGAのタイプ6型の重度AGA脱毛の症例。
前頭部には比較的太い毛髪が残存しているので、これらの頭髪を保護するために薬剤治療の継続は重要となります。
初診時の段階では6000から7000グラフト以上の移植が必要な状態です。
つむじ部に対しての植毛術は、思うよりも大量のグラフトが必要となります。
FUT/FUSS: 1回目1500グラフト、2回目1500グラフト(最終グラフト数:合計4007グラフト)。
【術前】
HN分類(➡ 男性のAGAのHN分類表をご参考ください。):6型(無毛+前頭部薄毛)。
3年前からフィナステリドとミノキシジルローションを使用していましたが、改善が認められなかったため、植毛術をご希望で奥様とご来院されました。
術前写真で見るように、前頭部から後頭部上まで脱毛が進行したNorwood-Hamilton分類 6型の重度AGA脱毛症です。
脱毛範囲は非常に広範囲のために、すべての脱毛範囲を適正密度で移植した場合、6000から7000グラフトが必要となります。
また、万が一、現在の薄毛の部分まで完全に無毛化していしまうと、移植グラフト数は白人の場合では8000から12000グラフトほど必要となると想定できます。
したがって、残存している既存毛がうぶ毛まで退化しないように薬剤治療を継続することも重要です。
以上のような説明を行った後に、初診時の見かけで最も気になるつむじから植毛術を行う流れとなりました。
通常の原則としては前頭部の生え際から植毛術を行うことが原則です。しかし、見かけ上、最も目立つ場所であることと、つむじ中心部の密度アップを想定した場合、初回手術で適正密度で移植した場合の移植効果を見ておきたかったという意図があります。もし、初回手術の結果、つむじ中心でもっと濃くしたいと思った場合、2回目に密度アップを行って濃くできるからです。
しかし、つむじ部に移植する場合における問題点がありますので、術前から十分にご理解しておく必要があります。
- つむじ部の脱毛面積は、想像しているよりも広範囲であること。したがって、想像よりも大量の移植グラフトが必要となります。
- 薬剤治療を行わない場合、脱毛の進行が360度全周性に広がっていくため、脱毛面積の増大が急速に感じてしまいます。
- つむじ中心は放射状に毛流が外側に流れていくので、つむじ中心にある程度頭髪が存在したとしても、薄く見えてしまいます。そのため、密度アップが必要となります。つまり、密度アップのためにもう1度か2度植毛術をしたくなる場所なのです。
【つむじ部への移植術の注意点】
遺伝的素因と年齢:父方は6~7型、母方は5型であり、薬剤の使用は考慮すべきです。
ドナーの状態:白人の後頭部のドナーの密度は、日本人と比較して非常に多くあります。したがって、同じドナー面積であれば、グラフト数だけで考えると、日本人よりも25%程度多く採取できることになります。
術式の選択:
重度AGAの場合ですので、移植グラフトの損失を最小限にするためにFUT/FUSSで行うのが原則です。
カウンセリングでご理解していただいたので、FUT/FUSSを選択されました。
【1回目の手術評価】
つむじ部の移植面積約65㎠に対して、許容密度の限界である移植密度30グラフト/㎠で移植術を行っています。
【1回目の手術結果 - 術後6ヶ月目と1年目】
1回目の手術から1年後、2回目の手術を行うこととなりました。
つむじ部の脱毛は気にならなくなったとのことで、つむじの密度アップを行うという選択はなくなりました。それよりも生え際から前回移植したつむじの部分までを移植したいというご本人の希望でした。
しかし、ドナー条件が良いとしても、安全に採取できるドナー面積には限界があります。そのため、移植密度をあまり落とせない前頭部は最低限の密度で移植し、その後方は移植密度を落として移植することとなりました。
【2回目の手術評価】
生え際から前頭部にかけて、移植密度30グラフト/㎠で移植術を行っています。そして、その後方の前回のつむじの移植部位までのつなぎの部分は、移植密度10~20グラフト/㎠で移植術を行っています。
【2回目の手術結果 - 術後6ヶ月目と1年目】
特に、前頭部の生え際の部分や前頭部の真ん中(frontal tuft)の厚みを写真で見ると移植術による増毛効果がよくわかります。
患者さんは今回の結果にも満足されました。
今回は2回の手術で4000グラフト移植され、脱毛面積から推測して、本来必要なグラフト数の半分でご本人の目的が達成されたことになります。
なお、これは薬剤を使用しているために脱毛部に色素のないうぶ毛まで退化していない比較的太い毛髪が残存しているからこそ、本来の必要グラフト数まで移植する必要がなかったということを示しています。
忘れてはならないのは、年齢とともに、AGA脱毛だけではなく老化としても脱毛は進行していくものであり、術前術後を含めて薬剤治療の継続は非常に重要であるということです。そして、薬剤継続をキチンと行うかどうかは患者さんの努力と気合で決まるといっても過言ではありません。
また、今回の例では、つむじ部の脱毛があまりにも目立っていたため、つむじ部から移植を始めました。これは2回目の密度アップを考慮したために、手術の順番で初回手術の移植部位として選択しました。
しかし、実際には、 患者さんは前からしか自分自身を見ないので、やはり植毛術を行う優先順位の原則は生え際から後方に向かって移植を完成していくのが鉄則です。これが最も患者さんにとって満足度を得られやすい方法だからです。
しかし、初回手術で生え際から後方に移植して前頭部を完成させてから2回目の植毛術をつむじに行う場合、つむじの渦巻きの近くが薄く感じた場合、もう1度植毛術を検討しなければならなくなります。
つまり、密度アップのために手術回数が1回増えてしまう可能性があります。
したがって、つむじを含めて広範囲の脱毛面積を植毛術で回復させる場合は、どのように完成させていくかという計画を初回手術から考えておかなければなりません。
なお、今回の患者さんの場合、FUEよりも損失グラフトがずっと少ないFUT/FUSSを選択しています。
したがって、今回、4000グラフトを後頭部のドナーより獲得していますが、当院で行うFUSSの技術ではまだ6000~8000グラフト以上の採取が可能です。そして、白人ですので、ひげからの移植も考慮できますので、まだまだ移植グラフトに余力が残されています。
ただし、上述したように、薬剤効果が継続すれば手術の必要性自体がなくなるかもしれません。
(2024年12月 K. Yamamoto記)