Lesson 1. つむじ部の瘢痕部への植毛術の例 :NS-FUE
20歳代前半、女性。つむじ部(分け目)の瘢痕部への移植。
NS(Non-Shaved)-FUE、26グラフト。
【術前】
瘢痕(キズ)の原因:10歳代前半に蕁麻疹が原因で、痒みのために過度に搔き、その後に頭髪が生えなくなったということでした。
(注:通常、脱毛が起こって1年以上経過したにもかかわらず毛髪が生えない場合は、すでに毛包組織が炎症によって破壊されてしまったと解釈できます)
術前所見:つむじ部に6ケ所の小円形瘢痕部が確認(術中に7ケ所確認)されました。これらのキズ跡がちょうど分け目にあたってしまったため、どうしても目立ってしまったようです。ダーマトスコープでの拡大像では、各々の瘢痕部の中に毛穴は見当たらず、毛包組織は完全に破壊されたキズであることが確認されました。したがって、薬剤での回復は不可能のため、最良の選択肢は植毛術ということになります。
ドナーの状態:ドナーの状態は良好です。
実際の手術では、最大効果を引き出すために、移植されるグラフトは3本毛グラフトか最低でもしっかりと太い2本毛グラフトを選択して移植するのが良い症例です。つまり、この症例のように、分け目を気にする場合には、キズと周囲との違和感を少しでも少なくするために、単位面積当たりの移植本数をできるだけ上げる、さらには十分に太い毛髪を選択するのが良いのです。
術式の選択:小グラフト数の移植でもあり、太い毛髪を持つ2本毛以上のグラフトを選択する必要があるため、この症例の場合は、迷いなくドナー部(後頭部)を剃毛しないNS(Non-Shaved)-FUEが最も良い術式となります。FUT/FUSSを推奨する利点はむしろありません。
【手術評価】
年齢も若く、女性ですので、FUEに適した症例です。実際に、FUEの選択で全く問題のない症例でした。
また、後頭部を剃毛しないNS-FUEでは、ドナー部(後頭部)の採取部は周囲の毛髪で隠れるので、手術翌日から全く気にする必要がありません。ただ、移植した部位だけ”グラフトを抜かないように”1週間気を付けるだけなのです。患者さんにとっても負担が少なく利点が多い術式なのです。
FUEの評価:グラフト切断率:0%、毛包切断率:4%、グラフト損失率:0%でした。特に、グラフト損失率が0%というのは、FUEが非常に適しているということを示しています。なお、切断率、損失率については、Step3『Proの植毛術』をご参考ください。
【手術結果 - 術後3ケ月半、5ケ月半検診、術後1年検診】
術後2ケ月半の時点で、移植部位に発毛が見られないので、不安のためにメール相談を受けました。通常、術後1か月目に抜けてしまった移植毛でも、早い人で2ケ月半前後から少しずつ発毛してくると説明しているためです。
術後3ケ月半目のご来院時においても、写真で見るように肉眼的には確かにハゲているように見えます。
この例のように、周囲にしっかりした毛髪に囲まれている場所は、たとえうぶ毛が発毛していても、外観上ではハゲて見えるため、不安を抱くのはごく当然のことなのです。これが元々無毛部である生え際に移植したとすれば、うぶ毛でも分かりやすいため、発毛が認識しやすいのです。
実際に、ダーマトスコープの拡大像では、ほぼすべてのグラフトから新しく発毛してきたうぶ毛様の毛髪が見られていました。ただし、発毛があった(生存率が100%)としても、毛髪が元々のような太い毛髪まで成長するかを見届ける必要があります。
術後5ケ月半目の検診では、移植毛もさらに成長することによってしっかりした太さに戻っていったため、肉眼的に7ケ所すべてのキズはわからなくなってしまいました。この症例の場合は、この時点でほぼ植毛結果が完了しています。
前回の検診で移植結果は終了していましたが、術後1年検診にわざわざご来院いただきました(ありがとうございます!)。移植毛は周囲の毛髪と比較しても変わりない状態まで成長していたため、前回よりさらにわかりにくくなっていました。キズ跡への移植の場合は、移植グラフトとともに皮膚も同時に移植されるため、さらにキズ跡の色調がわかりにくくなるためです。写真を見てもわかるように、わずかな頭皮の色調の違いにより”大体この辺りに移植した”というレベルの状態になっているのがわかるでしょう。