FUEの欠点:ドナー部の血流について『FUEではドナー部である後頭部の広範囲から移植毛を採取するため、大量移植では注意が必要!』
FUEは後頭部のドナー部の瘢痕(キズ)領域が広範囲に及ぶため、グラフト採取量が増えるほど、頭皮のダメージが大きくなってしまう。
1つの線状の限局的な瘢痕形成を伴うFUTと比較すると、FUEのドナー部のダメージは圧倒的に強い。
グラフト採取部の頭皮は瘢痕化された異常頭皮であるため、点状のキズが多いほど、頭皮血流が低下し、年齢の経過とともに、毛髪が細く退化してしまうと推測されます。
したがって、瘢痕化が強い場合は、血流低下予防に対する継続的治療が推奨されます。
私の他のサイトの随所で説明されるように、医師にとっても患者にとってもFUEは簡便な手術法であるため、近年、植毛術と言えば、『FUEで行うのが当然』と思っている方も多いでしょう。
そして、多くの患者さんは脱毛部(ハゲや薄毛)の部分だけを気にしているため、大切な移植毛の資源となるドナー部には全く注意を払っていないことが多いのも現状です。
極端な話、“後頭部はどうなってもよいから、気になる脱毛部にできるだけ沢山移植してください。”という方も存在ほどです。
しかし、長寿社会になってきたため、医師の立場からすると、目先のことだけにとらわれず、できるだけ将来的にもハゲや薄毛を気にせずに生涯を全うする方が結果的には良いと考えています。
実際には、現在の植毛術では、ほとんどの方が植毛術を行っても自然な形で増毛され、FUEやFUTのどちらの植毛術を行ったとしても他人からは全く気づかれないことが普通の時代となってきました。
しかし、大量な移植毛を必要とする方にとっては大きな問題が残っています。FUEやFUTで行ったとしても、ドナー部の瘢痕(キズ)は必ずできてしまい、グラフトを採取すればするほど目立ってきてしまいます。したがって、大量移植が想定される方は、ドナー部のことを初回手術の時から計画的に考慮しておくことが非常に大切です。
初回手術の時から計画的なドナー採取を行うほど、目立たないキズを維持しながら、大量移植を行うことが可能となってきます。

前置きが長くなりましたが、今回のテーマはドナー部の血流についてです。
結論から言うと、将来的なドナー部の血流維持は、圧倒的にFUEよりFUTが優れています。
理解しやすいように、まず1つ目の図を見てください。
ドナー密度が低い症例で、FUE500グラフトとFUT500グラフトのドナー採取部を比較しています。
FUE500グラフトの採取範囲(剃毛部、点状に見えるのが毛穴単位で引き抜かれれた円形のホール[穴]です)は比較的広いことがわかります。採取された1つ1つの部分は点状のキズに治癒しますので、この範囲は病的頭皮とみなすことができます。
一方、FUTの場合、ドナー採取部は塊で採取されて縫合されるので、短い線状のキズが1つだけできることになり、他の頭皮は勿論、病的頭皮ではなく、すべて正常頭皮のままです。図の右側上の等倍で重ね合わせた写真を見ても、瘢痕の範囲に大きな違いがあるのがわかります。
では、実際に瘢痕面積はどのくらい違うのでしょうか?
FUT500グラフトで採取する場合で、線状のキズの長さが6~8cmで、線状のキズの幅が2mmで治癒したとすると、FUTの瘢痕面積は1.2~1.6 cm2となります。
FUE500グラフトを1mmのパンチで1つ1つのグラフトをくり抜いたとしたら、1つの円形のキズは、0.00785 cm2となり、全く損失グラフトがなかったと仮定すると、瘢痕面積は3.925 cm2となります。
したがって、FUEは、FUTと比較してキズの量は3倍程度多いことがわかります。なので、大量移植を行うとさらにこのキズの面積の差はますます広がっていくことになります。

次に、FUEとFUTを行うことによって、将来的に血流という点で後頭部を含めたドナー部にどのような影響を及ぼすか考えてみましょう。
まず、2つ目の図の左の正常な頭皮の血流の状態を見てみましょう。
深部血管から流入した血管は、皮膚表面の真皮組織を垂直方向と水平方向の縦横無尽に循環しているのがわかります。
次に、図の真ん中の図が示すように、大量移植のため、2回のFUTのドナー採取によって、2つの線状のキズができてしまった場合を考えて見ましょう。
この場合、皮膚表面の真皮組織の血流は、水平方向で線状のキズに妨げられて血流が弱められてしまいます。しかし、この2つの線状のキズで挟まれた部分の内側は正常頭皮なので、その中では垂直方向も水平方向も両方ともに血液が自由に循環し、血流はほぼ正常に維持されます。
最後に、図の右が示すように、大量移植のために、2回のFUEのドナー採取を同部位に行って、大体半分近く毛穴が採取された場合を考えて見ましょう。
この場合、深部血管から皮膚表面の真皮組織に流入した血液は垂直方向のみしか保たれたれない状態となってしまいます。水平方向の血流は杭打ちされたような多数の点状瘢痕によって、いちいち血流は弱められてほぼ遮断された状態となってしまいます。

最後の図で見るように、血流の循環状態を視覚的に示した状態を見ると、500グラフトの採取であったとしても、頭皮のダメージ範囲は、FUTと比較してFUEが遥かに大きいことがわかるでしょう。
このように、生涯にわたって、大量移植が必要とないのであれば、将来的に大切なドナー部の血流に大きな影響は及ぼさないと考えられます。
しかし、例えば、5000グラフトほどの大量移植が必要となる場合であれば、FUEにおけるドナー部となる後頭部のダメージはかなり大きくなるため、せっかく強い頭髪を持つ後頭部の毛髪でさえ、経年的に老化進行が早まって早期のうちに細毛化してしまいます。
したがって、10年以上先のことを見据えるのであれば、ご自身がFUEとFUTのどちらの方法を選択するのかに始まって、脱毛の進行を止めることを怠らないことや大切な後頭部の頭髪を守ることもあらかじめ考えておかなければならないと考えられます。
(2026年8月 K. Yamamoto)


